09.06月10日 | ||
ドコモ、ソフトバンクとは一線画す! “少数精鋭”で挑むauの夏戦略を分析する | ||
ソフトバンクモバイル、NTTドコモに続き、2009年5月25日にはKDDIがauの夏モデル・サービス発表会を開催した。新機種が実質8機種と、他社に比べ半分に満たない数ではあったものの、端末・サービス面を含め「個性」という意味では最も際立っていた。冒頭で触れた通り、auが今回発表した携帯電話端末は他キャリアと比べ非常に少ない。 発表会場にて「2009年夏モデル」として発表されたのは、全部で13機種であった。だがその中には、春モデル発表会で発表済みの法人向けビジネスケータイ「E06SH」、そしてiidaブランドの「misora」と、草間彌生氏が手がけた3モデルが含まれている。それゆえ、実質的な新機種は8機種ということになる。 同じ夏モデルNTTドコモが18機種、ソフトバンクモバイルが19機種を発表していることから、数だけを見るとauは圧倒的に不利なように見える。だがKDDIの小野寺正社長が、会場で「外観を変えただけでは意味がない」と話していたように、今回の8機種、中でもフラッグシップモデルといえる4機種は特徴を明確にした個性あふれるものであり、他の2社と比べ端末の印象が非常にはっきりとしていた。 一応、4機種の概要を簡単に説明しておこう。 まずは7GBのメモリーに無線LAN、そして新しい電子書籍リーダー「Book Reader」を搭載したことで、電子書籍を楽しみやすくした「biblio」。次に防水にも対応し、フィットネスやゴルフなどau Smart Sportsの利用の幅を広げたタッチ専用端末「Sportio water beat」。そしてハイビジョンの動画が撮影でき、そのままテレビに出力できる「Mobile Hi-Vision CAM Wooo」。最後に、太陽光で充電可能な「SOLOR PHONE SH002」である。 SH002こそ同種の端末がソフトバンクモバイルから投入される予定だが、それ以外はauのオリジナルモデルであり、いずれの機種も特定用途向けの機能を強化して、明確な個性を打ち出されているのが分かる。各機種のバランスをとって「全部入り」を増やすのではなく、あえてバランスを取らず各機種に明確なアピールポイントを設けるというのはかつてのauが得意としていた手法であり、ある意味auらしい端末戦略が戻ってきたともいえる。 「指定通話定額」は「LOVE定額」の復活!? 発表された施策は端末だけでなく、サービスもインパクトのあるものだった。中でも注目を集めたのは、いわゆる「定額」に関する施策である。 今回、auは定額に関して2つの施策を発表している。1つは月額390円で、指定した3件までのau携帯電話との通話を24時間定額にする「指定通話定額」だ。これは実質的に、同社同士の通話を21時?翌1時までの通話を定額としているソフトバンクモバイルに対抗する措置と考えられ、発表会においても取締役執行役員常務の高橋誠氏は、「指定通話定額」と「シンプル980」の組み合わせが、他社の980円プラン(ソフトバンクモバイルのホワイトプランと思われる)と比較した際の優位点について力説していた。 月額390円、指定した相手に対する通話が24時間定額、というサービス内容を見ると、ソフトバンクモバイルがボーダフォン時代に提供していた「LOVE定額」を思い出す人もいるかもしれない。ちなみにLOVE定額とは、月額350円で指定のボーダフォン携帯電話1件との通話を24時間定額にするというもので、ボーダフォン自身が低迷する中、100万を超える契約のあった人気サービスであった。 この指定通話定額は、LOVE定額と比べ月額料金は若干高くなるが、登録件数は3件までと大幅に増えており、「恋人」だけでなく「友達」同士での利用も可能となっている。若い層を中心にユーザーを獲得してきたauだけに、コミュニケーションに積極的な若者需要を取り戻すという意味では、大きな施策になるといえそうだ。 「ダブル定額スーパーライト」は下限が390円になったが…… そしてもう1つは、パケット通信定額の下限を390円に下げる「ダブル定額スーパーライト」だ。NTTドコモが「パケ・ホーダイ ダブル」の下限を490円に下げたのを皮切りに、パケット定額料金の下限値下げの発表が続いていたが、発表会開催の時点では主要3キャリアで唯一、auだけが値下げを打ち出していなかった。それだけに、最後発ながら他社より100円安い額を提示したことは意味があったといえるだろう。 とはいえ、「ダブル定額スーパーライト」には他社にない弱点がある。1パケット当たりの料金が、従来の「ダブル定額ライト」では0.084円だったのが、「ダブル定額スーパーライト」では0.105円と上昇しており、より上限に達しやすくなっているのである。NTTドコモは下限を下げてもパケット代には変更を加えてこなかっただけに、やや残念だ。 auとしては利用頻度に応じて最適なオプションを選んでほしいということなのだろうが、そもそもパケット定額サービスが「ダブル定額」「ダブル定額ライト」「ダブル定額スーパーライト」と3つも存在すること自体、ユーザーから見ると複雑に感じてしまう。携帯電話の料金を頻繁に見直すユーザーがそれほど多いとは考えられないだけに、よりシンプルかつメリットのある形でパケット定額オプション自体を整理してほしかった。 他のサービスで注目すべきポイントは? サービス面でも注目すべきポイントがいくつかある。まず1つは、プッシュ配信サービスである「EZニュースフラッシュ」の強化版となる「EZニュースEX」の提供だ。これは、ニュースの質・量、そして配信速度を大幅に強化したもので、速報はテレビのニュース速報並みを目指すとしている。 EZニュースEXが特徴的なのは、個人の地域・し好に応じたニュースも用意し、その人に適した情報を配信するということ。そして、情報配信プラットフォームとして他社にも解放する方針を示していることだ。EZニュースフラッシュはiチャネルなど他社サービスと比べクローズドなサービスであり、他社がチャンネルを提供する余地もなければ、個人で好みのチャンネルを選ぶなどカスタマイズする余地もほとんどなかった。それだけに、有料サービスではあるとはいえプラットフォームがオープン寄りに変化したことが、どのような影響を与えるか注目したい。 そしてもう1つ、biblioの発表において、コミックではなく「読書」に力を入れて説明していたというのも大きなポイントだ。携帯電話向けの電子書籍市場は、ここ数年で急成長を遂げているものの、ケータイ小説のようなCGM系コンテンツを除くと、そのビジネスの中心はコミックで占められている。それゆえ、今後市場の広がりを見据える上では、小説など文章系コンテンツを携帯電話上で読むというスタイルを普及させる必要があるといえ、その先鞭(せんべん)を付けるには大きな意味がある取り組みといえる。 それでも不安を感じさせる3つの要素 端末、サービス共に充実した内容だったといえるauの夏戦略だが、気になる点もいくつかある。 まず第一に、ベーシックな端末が少ないということ。確かに個性あふれるモデルが多数そろえられたことで、ユーザーの興味を引きやすくなる。だが、逆にボリュームゾーンを支える“普通のケータイ”のラインアップが「T002」と「K002」のみと、非常に薄い。auにはかつての「Sportio」や「Walkman Phone, Xmini」などのように、個性が強すぎるがゆえに販売が振るわず、早々と「一括」に流れてしまった機種も少なくない。それだけに、フラッグシップとボリュームとのアンバランスさが実際の販売に影響しないのか、少々不安が残った。 第二に、やはりKCP+の問題である。動作速度はもはや気になるレベルではなく、タッチ操作やmicroSDHCに対応する機種が増えるなど、改善が進んでいることは評価できる。だが横画面やタッチ操作への対応が中途半端であるなど、他社と比べ不満を感じる要素は相変わらず少なくない。メーカーが手を入れられる要素が少なくなった分、機能的トレンドが1、2歩遅れてしまうという点は、引き続き大きな課題といえるだろう。 そして最後は、大容量データ通信需要に対する取り組みである。これに関しては、ある意味、フルブラウザである「PCサイトビューアー」の施策が象徴している。 実は今回、PCサイトビューアーとして採用されている「Opera Mobile」が大幅にバージョンアップし、AjaxやFlash Video、つまりGoogleマップやYouTubeなどの利用が可能となっている。だがFlash Videoによる動画の再生などは、新サービスの「Wi-Fi WIN」を使い、携帯電話網の利用を回避した時のみになるといった制約がある。しかも今回のau新施策のうち、このOpera Mobileの施策に関してのみ専用のブースが用意されておらず、会場で詳しい話を聞くことができなかった。 こうした点から、キャリア側で制御の難しい大容量のデータ通信に対して、相変わらず消極的という印象を受けてしまったのは事実だ。他社がスマートフォンや動画などによるデータ通信需要の開拓に積極的に取り組んでいる以上、auもデータ通信のヘビーユーザーに対する何らかの回答がそろそろ必要なのではないだろうか。 |