16.04月08日 | ||
美容の力で心を開く サロン立ち上げ女性がん患者を支援 | ||
がん治療の副作用で脱毛や肌のトラブルを抱える女性患者への美容ケアを支援する取り組みが広がっている。自身もがんを患い美容業界で働いていた女性が、女性患者向けのエステサロンを開業しており、注目を集めている。病気で失いかけた生活の質(QOL)を取り戻す大きな力になっている。 自らもがんと診断されて 自らもがん患者のさとう桜子さんは2013年6月、東京都中央区にがん患者向けエステサロン「セレナイト」を開業した。「がんでも美しく輝く女性でありたい」。それが経営するうえで大切にしている思いだ。当たり前ともいえる願いを込めた背景には、闘病中に通ったエステサロンでの体験があった。 さとうさんは11年7月に「子宮体がん」と診断された。当時は外資の化粧品会社に勤め、プロのエステティシャンに美容技術を教える指導者として働いていた。同年10月から12年5月まで、都内の病院で、2度の手術と半年間の抗がん剤治療を受けた。 抗がん剤の副作用によって、爪先は黒くなり、髪もまつげも抜け、肌もがさがさに荒れた。鏡に映る自分の姿を見て、何度も落ち込んだ。 同じ思いで悩んでいる人は多い さとうさんは治療中、長年携わってきた美容の力を信じようと思った。荒れた肌がよくなり、気分も晴れるのではないかと期待し、エステサロンを訪ねた。 しかし、エステサロンの対応は、予想外だった。がんの進行状況を何度も聞かれたり、副作用で荒れた肌にはきついと感じるやり方でエステを施されたりして、苦痛だった。 一方、入院時に同室で抗がん剤治療を受けていた女性が、結婚式に向けて、花嫁向けのエステに申し込んだが、がんを理由に受け入れを断られたことを知った。「私たちと同じ思いで悩んでいる人は多いはず。今後、がんになった人が困らないために何とかしたい」という気持ちがわき上がった。12年2月、さとうさんと女性らの患者3人が、がん患者の心や体に配慮したエステサロンの開設を決意した。 開設準備中に同室だった女性のがんが進行した。女性の体調がすぐれない中、メールで連絡を取り合い、家具を選ぶなどして13年5月に内覧会を開いたが、女性はその2日後に32歳で亡くなったという。 悩みを話し 外に出られるように セレナイトでは、肌や嗅覚が敏感になっているがん患者の症状に合わせてきめ細かく対応している。患者の要望に応じ、状況を見ながらローションなどを使ってやさしくマッサージしたりする。また、まつげの脱毛後につけまつげを付けて行う独自の化粧方法も指導している。 また、患者との会話から、さまざまな悩みを抱えていることが分かるという。病気による外見の変化を気にして引きこもりになったり、眉やまつげが抜けた顔にショックを受け、その顔に似合う化粧の仕方が分からなかったり−−。それでもサロンに来てから、引きこもりがちな患者が、化粧の方法を覚えたり、さとうさんと話をしたりすることで、自分に自信がつき、外に出られるようになったケースもある。 化粧や美容でQOLが向上する 美容以外に、就労や金銭的な悩みなどを聞くことも多い。雇用の不安や家族に迷惑をかけたくないなどの理由から、がんであることさえも周囲に相談できず苦しんでいる人もいるという。さとうさんは「がんの患者さんには、体だけでなく、精神面でも手厚いサポートが必要だ」と話す。また、さとうさんは、大学病院などで医療従事者向けに、自分自身の活動について講演を行っている。 がん患者のQOLの向上について研究している河原ノリエ・東京大学大学院情報学環特任講師は「化粧を通じて、患者の心が開かれていく。さとうさんが行う化粧や美容は患者さんとのコミュニケーションそのもの。化粧や美容には、心が前向きになり、QOLを向上させる知恵が詰まっている」と話す。 |
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