10.05月31日 | ||
資生堂、美容部員が奮い立つキャリアの“見える化”《ものすごい社員教育》 | ||
消費不況の中、化粧品業界には固定客を確保できる対面販売を再重視する動きが広がっている。百貨店や専門店でカウンセリング販売をする美容部員の能力を引き出すにはどうすべきか。 資生堂は、美容部員を「ビューティコンサルタント」と名付け、そのスキルアップに取り組んでいる真っ最中だ。 同社の美容部員は総勢1万人。社員の40%近くを占め、そのうち男性は約10人。女性中心の大所帯だ。 美容部員は全員、契約社員で社歴をスタート。入社3年以降に一定の成績で正社員登用試験を受けられ、その後もステップアップ可能だ。しかし、美容の技術を生かせるポストや管理能力を養う機会の少なさなど、環境整備が遅れていた。 そこで昨年10月から、美容部員を含む全美容職を対象にキャリア支援プログラムを本格始動。管理職、専門職という頂点の役職を設置し、キャリアアップの「見える化」を図った。美容部員にキャリア志向を醸成する仕組みは国内で初めてだ。 同プログラムでは、美容部員のトップとして、組織を率いる管理職と、美容技術を極めた“美のカリスマ”「高度美容専門職」を用意。どちらの職種で活躍したいかを申告し、働き方に反映できる。 会社側はキャリアアップを研修で支援。この研修を一手に引き受けるのが、2006年創設のバーチャル企業内大学「エコール資生堂」だ。社長が学部長、副社長が副学長を兼任。営業・マーケティング、生産など7学部と共通課程を傘下に全社員を育て上げる。科目には必修と選択があり、自分の目指す将来像に合わせて受講可能だ。 そして、美容部員から管理職を育成するため、08年エコール資生堂内に設けられたのが、「美容マネジメント研修」。今までも美容部員から管理職になるケースはあったが、美容部員は一対一で顧客応対するのが仕事。組織の中でマネジメント能力を育成する機会は少なく、その登用にも限界があった。 そこで同研修では、論理力・課題設定力、マネジメント力、リーダーとなる「高い志」を徹底的に教え込む。初年度の受講生は全国から集めた選りすぐりの24人だ。 研修には社長、副社長、専務のトップ3が現場に足を運んで講演。前田新造社長は「もっと経営サイドに来て活躍してほしい」と鼓舞する。厚生労働省出身で働く母親としてのキャリアを持つ岩田喜美枝副社長は、自らの体験談を交えて不安の解消に努め、経営層総出で管理職志向を後押しする。 また、昨年10月に高度専門美容職を新設。それまではどんなに美容技術が卓越していても、役職面では横並びだった。前出の管理職になると管理業務に徹せねばならず、美容技術を発揮できる機会はほとんどなくなってしまう。 高度美容専門職では、アーティストとしてキャリアを積めるうえ、待遇面でも管理職と同等を保証。モデルケースとして登用した岡元美也子氏と西島悦氏はすでにメディアで活躍。そもそも「化粧をしてあげることが好き」という理由で美容部員になる人がほとんどのため、やる気を維持してもらい、昇格の暁には会社お抱えのトップアーティストとして活躍してもらう狙いがある。 今年4月、高度美容専門職の育成のために、エコール資生堂内に美容大学院「資生堂ビューティーアカデミー」を開校。新入生はメーキャップアーティストなど20人弱で、最長3年の課程を修了した中から年に1?2名が登用される。日常業務の傍ら、高度美容専門職に同行するほか、美容技術や理論を受講する。資生堂はなぜここまで美容部員の育成に力を注ぐのか。美容部員は美容の知識や技術、接客力のほか、日々の業務から顧客の視点を兼ね備えている。美容部員の士気向上や女性の登用というCSRの意味合いだけではなく、「現場の声を経営に反映できる会社全体の経営戦略」と深澤晶久・人材開発室長は説明する。 人事評価にノルマ撤廃 アンケートが通信簿 資生堂はこれまでも、美容部員が顧客満足を高めながら接客できる環境整備を進めてきた。 06年度には、美容部員の人事評価からノルマを撤廃。顧客の肌や容貌に合う化粧品を推薦できるようにするためだ。 「ノルマのために推奨品を積極的すぎるくらいに声をかけてオススメしていた」と当時を振り返って、西村敦子・美容統括部長は苦笑する。 ノルマ撤廃は前例がなく、売り上げが下がる懸念があったが、前田社長が「一時の売り上げが落ちることよりも、顧客満足を高めたほうが再来店につながる」とトップダウンで進めた。 ノルマの代わりに人事評価の対象になったのが、顧客の声。応対した美容部員が顧客にアンケートはがきを渡す。そのはがきには、「ごあいさつや話し方はいかがですか」などの質問に4段階で回答。それをもとにした成績表では、レーダーチャートで満足度や有益性などが示され、自分に何の能力が欠けているのか一目瞭然だ。 「ノルマがなくなって、かえって厳しくなった」という声さえある。そのはがきにはフリーアンサーの欄があり、ほぼ書き込まれている。08年届いたはがきは月5万枚。「お客様の客観的な指摘が質の高い応対につながる。美容部員にとってはがきは通信簿」と西村統括部長。顧客の声も美容部員を育てているカンガルースタッフが働くお母さんを応援 続けて06年に行ったのが、育児時間の代替要員制度「カンガルースタッフ」。従来から育児時短制度はあったものの、夕刻は化粧品売り場が最も忙しい時間帯。それを横目に帰るのは心苦しく、辞めざるをえない美容部員も多かったという。 そこで夕刻以降の時間帯に、美容部員の応援要員としてカンガルースタッフを採用。「働くお母さんを応援します」というバッジをつけてサポートする。06年当時の500人体制は、1万1000人以上に拡大。今は結婚や育児があっても仕事を続ける人がほとんどだという。 「女性社員は辞めずにいられるだけでなく、・活躍できる・段階に移行中」と坂倉有・人材開発室次長は言う。ただ資生堂の女性管理職の比率は18・7%。他の国内メーカーよりは高いが、P&G26・4%など外資には出遅れている。13年までに30%と高い目標を掲げ、“活躍できる”女性を急増させる計画だ。 |