10.02月19日 | ||
まつ毛エクステンションの危害 | ||
厚生労働省は2008 年3 月に、東京都公表のまつ毛エクステンション(以下、「まつ毛エ クステ」)に関する危害状況を受けて危害防止の徹底をはかる通知文書を出したが、その後 もまつ毛エクステに関する危害の相談は増加している。PIO-NET(全国消費生活情報ネット ワーク・システム)に寄せられた相談は、2004 年度以降156 件となっている(2010 年2 月 5 日現在)。このうち100 件以上は、通知が出された後に寄せられた相談である。 厚生労働省はまつ毛に関する施術を美容行為と位置づけているが、まつ毛エクステは美 容院だけでなく、エステ店やネイルサロン、さらに最近はまつ毛エクステ専門のサロンで も行われている。これらの店舗で美容師が施術しているかどうかは定かでない。 目元というデリケートな部分に行うまつ毛への施術は、接着剤や器具の刺激、また施術 者の技術によって特に危害が発生しやすいため、細心の注意が必要である。 そこで、被害の未然防止・拡大防止のため、まつ毛エクステの危害について最近の状況 を情報提供する。 1.まつ毛エクステンションとは シルクや化学繊維などの人工毛を専用の接着剤でまつ毛につけ、まつ毛を長くしたり濃 くするなど、ボリュームアップする手法。本数や長さ、カールのタイプ、色などを自分の 好みで選べる。最近は人工毛を1 本1 本まつ毛につける手法が主流となっている。 扱い方やまつ毛の状態により個人差はあるが、3?4 週間でつけ直すのが一般的である。 2.相談者の概要 PIO-NET に相談が寄せられたまつ毛エクステに関する危害・危険156 件のうち、実際に何 らかの危害を受けているものは154 件である。 ? 年度別件数の推移 156 件の年度別件数の推移は、2004 年度2 件、2005 年度7 件、2006 年度11 件、2007 年度36 件、2008 年度50 件、2009 年度50 件である。 ? 相談者の属性 155 件が女性(不明1 件)で男性はいなかった。 年齢は、10 歳代1 件、20 歳代71 件、30 歳代45 件、40 歳代20 件、50 歳代5 件、60 歳代2 件である(不明12 件)。 ? 危害部位 危害の部位は「眼」が145 件、「顔面」7 件、その他が2 件である。ほとんどが目及 び目元の危害である。 ? 危害の内容 危害の内容でもっとも多いのは「その他の傷病及び諸症状」93 件、「皮膚障害」45 件で、以下「感覚機能の低下」7 件、「刺傷・切傷」5 件、「熱傷」2 件、「擦過傷・挫傷・ 打撲症」1 件である(不明1 件)。 「その他の傷病及び諸症状」の具体的な症状は、眼の充血や痛み、炎症やアレルギー などが多い。 ? 危害程度 危害の程度は「治療1 週間未満」が33 件、「1?2 週間」28 件、「3 週間?1 ヶ月」4 件、「1 ヶ月以上」4 件、「医者にかからず」32 件、「不明」53 件であった。 3.主な事例 【事例1】 まつ毛エクステをした日の夜から目が痛くなり、涙が止まらなくなったので救急で 眼科に行くと、角膜全体に傷がついている、接着剤が原因ではないか、しばらく通院 が必要と言われた。翌日店舗に事情を話したが対応が悪い。1 ヶ月半ごとに通っていた が今までこのようなことはなかった。 (2009 年11 月受付、東京都・30 歳代・給与生活者) 【事例2】 通っているネイルサロンでまつ毛エクステをしたが、ここ数回目が痛くなる。サロ ンで軟膏をくれたが、効かないので眼科で診てもらったら、薬剤で腫れが発生してい ると言われた。店に苦情を言うと、アレルギー体質だと言われたが、他の客の苦情に もそう言っているようだ。美容師の資格もないらしい。 (2009 年11 月受付、滋賀県・20 歳代・無職) 【事例3】 無料情報誌を見て行ったまつ毛エクステ。施術の翌日に取れてしまったので店に申 し出たところ、リムーバーで除去されてまつ毛が抜けてしまい、まぶたが腫れてしま った。病院へは行かなかったがしばらくまぶたがかぶれ、まつ毛は半年たってやっと3 ミリほどに生えてきた。店が対応してくれない。 (2009 年10 月受付、福岡県・40 歳代・家事従事者) 【事例4】 エステサロンでまつ毛エクステをしたらまぶたが腫れた。店に申し出ると、治療を 受けて診断書を出せば治療費を支払うと言われたので、治療を受け、アレルギー反応 であるとの診断書を提出した。その後、店舗側はグルー(接着剤)の合う合わないは 顧客の状態によるからと言い出し、対応してくれなくなった。 (2009 年9 月受付、大阪府・20 歳代・給与生活者) 【事例5】 まつ毛エクステの施術途中から目が痛くなり、開けていられない状態になった。翌 日眼科に行ったところ、角膜に傷がついており結膜炎にもなっていると診断された。 コンタクトレンズも使っているので100%エクステが原因かどうかは断言できないが、 可能性があると言われた。店に申し出たらクレーマー扱いされた。 (2009 年8 月受付、埼玉県・20 歳代・給与生活者) 【事例6】 まつ毛エクステの施術中、痛いと言ったら接着剤を変えれば大丈夫かもしれないと 言われ変えたが、痛かったので途中でやめて帰った。その後も充血が取れないので店 に申し出、責任者と話したいと伝えたが応じてもらえず、承諾書に記入し署名もある のでトラブルがあっても対応しないと言われた。 (2009 年5 月受付、東京都・20 歳代・家事従事者) 4.危害事例にみられるまつ毛エクステの問題点 ? 美容師の資格を持たない者が施術している まつ毛の施術には美容師資格が必要であるが、事例には美容師資格を持っていない人 が施術していると思われるケースがみられる。 ? 目元の施術であることや接着剤の使用など危害が生じる要素が多い まつ毛を加工したり目元で化学物質を使う施術は、目に不要な刺激を与えたり目の危 害に直結する危険がある。 エクステ用の接着剤の正確な成分は不明だが、瞬間接着剤と同じシアノアクリレー ト系が主だと思われる。シアノアクリレート系の接着剤は接着速度が早いが、人体と もよく接着するうえ、皮膚につくとやけどの危険性もある。 まつ毛エクステの施術には、目やまつ毛に関する知識や、高度な技術と細心の注意が 必要である。 ? トラブル時の対応に問題のある店舗が見られる 危害が生じたことを店舗に申し出ても、責任者が対応しなかったり、アレルギー体 質によると決めつけて責任を認めなかったり、同意書や念書へのサインを理由に一切 対応しないなど、サービスを提供する事業者として対応に疑問が持たれる店舗もある。 5.専門家の助言 梶田眼科院長 医学博士 梶田雅義氏 まつ毛エクステをしたあとで目のトラブルを訴える症例は、以前は月に1?2 件であった が、最近は週に1?2 件は見るようになった。年齢も幅広く、ほとんどの患者が、痛みやひ りひり感、充血がひかないといった症状で訪れる。接着剤や他の薬剤が目に入り傷がつい た例や、人工まつ毛が目の方向に向いてついてしまっている例、中には人工まつ毛が角膜 に刺さっていた例もある。 まつ毛エクステを行って1?2 週間くらいたってから症状が現れることもある。自分のま つ毛が伸びて、その先に人工まつ毛がついているので、重みでまつ毛が垂れてきてそれが 角膜に触れてしまったり、接着剤の固まりがまぶたの裏にはりついたりして角膜を傷つけ てしまったのが原因である。 まぶたやまつ毛は汚れや細菌から目を防御するために機能している。人工まつ毛をつけ ていると、目元をきちんと洗いにくくなるので、目元を清潔に保つことが難しくなる。そ の結果ものもらいなどができやすくなるうえ、できてしまったときに治療の妨げになる。 眼科医としては、目の病気を防止するためにも目元は清潔にしておくことを勧める。 まつ毛エクステをしたい場合は、継続してつけておかず、まつ毛を休め、目元を清潔に 保持できる期間を作ることが大事である。 また、少しでも異常を感じたらすぐに眼科を受診するべきである。小さな傷であっても、 放っておけば細菌などが入り、炎症や潰瘍 かいよう などになる場合がある。角膜潰瘍 かいよう は治療が遅れ れば視力の低下を招くこともある。6.消費者へのアドバイス ? まつ毛エクステの施術は目への危険が懸念される 目及び目元は皮膚が薄く粘膜と接しているので非常にデリケートな部分である。ま つ毛エクステは、その粘膜に接して生えているまつ毛に人工毛を瞬間接着剤等で接着 する施術である。接着剤などの化学物質を目の近くで使うこと、異物を貼りつけるこ と、目元で細かな長時間の作業を行うことなど、目には危険や負担を伴う行為である。 危険性を理解し実施するかどうかよく考えよう。 ? 問題が発生したらただちに診察を受け、まつ毛エクステを行ったことを告げよう 医師の診察を受けても、症状だけでは原因がわからず、医師も単に原因不明の結膜 炎やアレルギーとして投薬治療で終わることもある。まつ毛エクステが原因と思われ る場合は、施術をしたことをきちんと告げて診察をしてもらおう。 ? まつ毛エクステの施術で危害を受けたら情報提供をしよう 厚生労働省では、まつ毛の施術は美容師法上の美容であると位置づけている。まつ 毛エクステで危害を受けたり、美容師ではない人が施術をしていると思われたら、消 費生活センターへ相談の上、地域の保健所や衛生担当部署等へ情報提供する。 7.事業者への要望 ? まつ毛の施術は美容所としての届け出と美容師の資格がなければしてはいけない 厚生労働省から2008 年3 月7 日付けで「まつ毛エクステンションによる危害防止の 徹底について」という通知が各自治体の衛生主管部宛に出されている。それによると、 まつ毛エクステは美容師法に基づく美容に該当すると明言されている。施術は美容所 の届け出のある施設で美容師の有資格者でなければしてはいけない。 ? まつ毛エクステに関する知識や技術の向上が必要である まつ毛エクステを行うには、取り扱う接着剤などの素材や、目や目元の人体につい てなど、さまざまな知識と高度な技術が必要である。美容師資格を持っていてもこれ らの知識や技術的な訓練を受けていなければ危害は生じやすい。危害の防止のため知 識や技術の向上を求める。 ? サービス提供事業者としての対応を整備すること トラブル発生時の対応がずさんな店舗も多い。まつ毛エクステはその部位や施術の 内容から危害が生じやすいので、それらを想定した事業者としての対応を、責任をも って整備するべきである。 8.行政への要望 厚生労働省の通知が発信された後も、まつ毛エクステの施術による危害の相談は増 加している。中には美容師法に抵触しているおそれのある例も見られる。危害の未然 防止・拡大防止のため、関係機関等により適切な対応が行われるよう要望する。 【要望先】 ・消費者庁消費者情報課地方協力室 【情報提供先】 ・厚生労働省健康局生活衛生課 ・経済産業省商務情報政策局サービス産業課 ・日本眼科学会 ・全日本美容業生活衛生同業組合連合会 ・財団法人日本エステティック研究財団 ・日本エステティック振興協議会 ・一般社団法人日本全身美容協会 |